「赤い空 銀の鱗」



* 序章 *

手を伸ばせば届きそうなほど近くを、君は泳いでいった。
鋼鉄の鱗は、言葉と記憶のかけらが降り積もった虚構の海を泳ぎ渡るため。
硝子の瞳は、失ってしまった懐かしいものたちを二度と映し出さないため。
そうすることでしか、君は生き残っていけなかった。

僕たちの目に、君の姿はとても自由に見えた。
網目のような水路を辿ってどこへでも行ける君が、僕たちは羨ましかった。
だけど……。

君も、僕たちと同じように寂しかったんだね。
君も、僕たちが望んだようにどこかへ帰りたかったんだね。
だから君は、僕を見つけた。
ひとりぼっちになってしまった僕を……。

君のいるその場所へ、僕も連れていって欲しい。
懐かしいあの場所へ、僕を連れ戻して欲しい。
僕が本当に望むのは、どちらなのだろう。
ねえ。君にならば、分かるんだろうか。



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