「文章修行家さんに40の短文描写お題」



* 三行小説 *

00. お名前とサイト名をどうぞ。また、よろしければ一言なにか。
 ほたる、と申します。「彩色分光」という名のサイトを運営しています。想像力とボキャブラリーの限界に、いざ挑戦。

01. 告白
 下駄箱の前に仁王立ちして、彼女は制服の胸に手紙を抱く。決闘を挑むように唇を引き結んで、愛おしむように指先で消えかけた名前をなぞる。(65文字)

02. 嘘
 テレビは世界の終末を宣言し、ラジオは宇宙人の襲来を告げる。万愚節の空は浮かれ騒ぎで、本物のペガサスが翔けたって誰も気付きやしない。(65文字)

03. 卒業
 涙を隠す教官も、歓声を上げる後輩達も、上空を旋回する彼からは見えない。新調した上着も、祝福の花束も投げ捨て、彼はただ操縦桿を握る。(65文字)

04. 旅
 運送店にいつもの老人が現れた。送る荷物は草臥れた小さな鞄、今日の宛先は常夏の島。震える手がかき集めた硬貨で、老人の鞄は世界を巡る。(65文字)

05. 学ぶ
 ……お嬢様の稽古中、私は帽子持ちとして控えていました。そうして聞き覚えた歌が、私を舞台へと導いたのです(『ある歌姫の回想』より)。(65文字)

06. 電車
 坊やの家は線路の向こう、ママがミートパイを待っている。なのに遮断機が上がらない。パイは段々冷めていく。坊やは次第に泣きべそをかく。(65文字)

07. ペット
 赤い首輪に銀の鈴、毛むくじゃらで角が三本、長い耳に短い足、歌が得意で空も飛ぶ、可愛いマリーを知りませんか。ある日のそんな迷子探し。(65文字)

08. 癖
 例えば、オブラートみたいに繊細な雲母のカードで出来たトランプタワーが立っているとして、それを注意深く倒すように、君は瞬きをするね。(65文字)

09. おとな
「私もうお姉さんなの」
 赤ん坊の頬を撫でて幼子が笑う。
「あたしは永遠に子供のままさ。あんたよりうんと年上なのに」
 年代物の人形が呟く。(65文字)

10. 食事
 舞台では、痩せた道化師が空の皿に載った料理を美味そうに頬張っている。分厚い肉を切りつつそれを眺めていた紳士の腹が、高らかに鳴った。(65文字)
   
11. 本
 書庫の隅で、私は待っていた。紙が黄ばみ、表紙が破れても尚。そして今、一人の少女が頁に挟まった私の四つ葉を見つめ、微笑んでいるのだ。(65文字)

12. 夢
 黒光りするランプを抱え、僕は瓦礫の街に立ち尽くす。ランプの精は自慢げに叫ぶ。願いは叶った。さあ次の望みを! 頬を抓ると、涙が零れた。(65文字)

13. 女と女
 変わらないわね。再会した友人の台詞に、彼女は微笑んで答える。ありがとう。部屋に戻った彼女はひとり、鏡の前で新色のルージュをひいた。(65文字)

14. 手紙
 黒山羊嬢の答はすげない否だった。贈り物の花束と共に便箋を飲み下し、白山羊氏は涙に暮れてペンを執る。前略、先のお便りのご用事は……。(65文字)

15. 信仰
 コーヒーの湯気に神を見る男がいる。薄汚れた着せ替え人形を女神と呼ぶ女がいる。鉄格子の嵌った窓の奥で、それでも彼らは幸福そうだった。(65文字)

16. 遊び
 夕食の合図で僕達の小さな世界は終わる。君の手が僕達を眠らせるのだ。
「ママ、お片付けできたよ」
 また明日。玩具箱から僕達は君に挨拶する。(65文字)

17. 初体験
 若い兵士がふたり、無言で対峙している。睨み合う銃口は、しかし彼らの瞳と同じく震えて止まらない。空が号泣するように、スコールが降る。(65文字)
 
18. 仕事
 七時のニュースです。今日午前、男が大蟻喰の扮装で当局に侵入しました。男は諜報部員で、変装の指令を仮装と勘違いしたと供述しています。(65文字)

19. 化粧
 葬儀の日、ぷいと出かけた祖父は、百貨店の袋を手に帰ってきました。そして、新品の頬紅と眉墨を祖母の棺に納め、黙って涙を流したのです。(65文字)

20. 怒り
 目が光る。爪を立てる。毛を逆立てる。それでも闖入者は彼の彼のソファから動かない。一緒に遊びたいの? 呑気な声に彼は憤然と尻尾を振る。(65文字)
   
21. 神秘
 あなたが本を読む。あなたが紅茶を飲む。あなたがくしゃみをする。あなたが涙ぐむ。あなたが笑う。あなたが眠る。私の隣に、あなたがいる。(65文字)

22. 噂
 大富豪Q氏死去の報に親族が集った。邸では故人の吝嗇と遺産の話に花が咲く。その様子を、遺言状を手にQ氏が隠し窓から鋭い目で見ていた。(65文字)

23. 彼と彼女
 
双子のジョンとジル
 ある日鞄と靴を取替っこ
 次の日服と帽子を取替っこ
 次の次の日部屋と名前を取替っこ
 でも誰も気付かない
 双子のジルとジョン (65文字)

24. 悲しみ
 黒いベールの娘が、花占いをする。墓前の秋桜は、全て一枚を残し花弁がなかった。帰る、と囁いて、娘は同じ姿になった花を静かに手向ける。(65文字)

25. 生
 糸の切れた操り人形を携えた老女を、少年が揶揄する。老女が糸を操る仕草をすると、少年の手足は踊り出し、彼は悲鳴を上げた。老女は笑う。(65文字)

26. 死
 美しい娘が合わせ鏡に見入る。延々と続く薔薇色の頬、澄んだ瞳。鏡の奥から土気色の肌と虚ろな目の己が見返していることを、娘は知らない。(65文字)

27. 芝居
 
大道具係の夫が砂漠に雪を降らせれば、音響係の妻は涙の場面でマーチを流し応戦する。夫婦喧嘩は家でやれと監督が叫べば、客席は大喝采だ。(65文字)

28. 体
  
―司会者、空中へ質問する。
  「では、透明人間ゆえの悩みは?」
   ―声だけが返る。
  「髪型を変えても気付かれない事だね」
   ―観客、大笑いする。 (65文字)
 
29. 感謝
 港町の喫茶店では多国籍な言葉が飛び交う。紅茶を運ぶ蒼い瞳のリザに辞書で覚えた彼女の母国語で礼を言うと、含羞んでアリガトウと答えた。(65文字)

30. イベント
 
彼女の手帳に記された二人の一番新しい記念日は、今日だった。そして今、予定通りに彼女が告げる別れの言葉を、僕は目を閉じて聞いている。(65文字)

31. やわらかさ

32. 痛み

33. 好き

34. 今昔(いまむかし)

35. 渇き

36. 浪漫
 
古いレコードとギターを売り払った代金は、ちょうど年代物のスコッチ三杯分だった。飲み干したグラスを前に彼は敬礼する。青春よ、さらば。(65文字)

37. 季節

38. 別れ

39. 欲
 窓ガラスに貼り付いた雨粒のひとつひとつに、街が小さく映り込んでいた。その雫を掌に一粒受け止めて、この世界は私のものよと少女は呟く。(65文字)

40. 贈り物
 小さな手が得意げに差し出す、毒々しいまでに紅い花。パパ、花火が咲いてたんだよ。君の一言が、曼珠沙華をこの上もなく美しい花に変えた。(65文字)

※お題配布元 : 「文章修行家さんに40の短文描写お題」




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